自動車ライター飯嶋洋治のブログ

編集者、ライターです。「モータースポーツ入門」、「モータリゼーションと自動車雑誌の研究」(ともにグランプリ出版)、「スバル・サンバー 人々の生活を支え続ける軽自動車の半世紀」(三樹書房)、「きちんと知りたい!自動車エンジンの基礎知識」(日刊工業新聞社)など著書多数。たまにサーキットを走ります。

クルマのLSDに関する誤った情報とホントのところ

このところ、クルマ関係のウェブサイトが多くなった。なり過ぎたと言ってもいいだろう。ただ個々の記事を見ている誤った情報も多い。もともと紙媒体を持っている出版社が、その電子版として運営しているサイトでも、かなりの割合で間違えた情報が掲載されているのは悲しいところ。代表的な例では、LSDの解説について。まずデファレンシャルにプレッシャーリングとクラッチプレートを組み入れたタイプを「回転差感応式」と説明する記事をけっこう見る。

 

なんとなく、クラッチプレートがあるから、片輪が回転しようとすると、もう片輪に駆動力が伝わるのではないかと思うのだろうが、もちろん間違いで、これは典型的な「トルク感応式」だ。駆動力がかかったときに、ピニオンシャフトによってプレッシャーリングが開き、左右をクラッチプレートで差動制限するというのがホントのところ。

 

追い打ちをかけるように? このタイプのLSDで「片輪がスリップしてももう片輪に駆動力を伝えることができる」と書いていることもある。正確には、片輪がスリップすると、駆動力が逃げてしまい、プレッシャーリングを開くことができないので、もう片輪も駆動することができない。これはノーマルデフと同じだ。両輪が接地しているときにデフの差動制限をして駆動力を伝えるのがいわゆるクラッチプレート式のLSDだ。

 

ただ、現実には雪道を走ったり、片輪が浮いたりすることもある。そのときのためにLSDクラッチプレートにはイニシャルトルクがかけてある。クラッチプレートと同列にコーンスプリングなどを入れて、あらかじめちょっとLSDが効いた状態にしておく。

 

カニックがLSDを組んでいるところを見ると、クラッチプレートや調整用のシムを組み込み、いったんLSDを組み上げて、トルクレンチでイニシャルトルクを計測し、思ったトルクではなければ、また分解して調整し……という作業を行なっているのが分かる。実は、インリフトするような激しい走行をしても、クルマがどんどん前に出ていくのは、この辺のチューニングがポイントだったりする。

f:id:yoiijima:20180903091947j:plain

図は「モータースポーツのためのチューニング入門、グランプリ出版:飯嶋洋治」より転載