以前単行本の編集者と打ち合わせをしたときに、「駆動系の話で一冊作りませんか?」と提案したことがある。ところが担当氏はあまり浮かない表情を見せた。「エンジンの本は比較的売れるんですけど、駆動系は今まで売れた例がないんですよ」という。個人的にはクルマの機構の中でも一番面白いところだと思うのだが、私の認識はずれているらしい。
そんな駆動系の一部のLSDの話をなんとなく始めてしまったのだが、中途半端も嫌なので、もう少し続ける。多板クラッチ式は一般に機械式LSDと呼ばれる。トルク感応式のトルセン式やヘリカル式もそう呼ばれる。これは改めて説明する。一方、回転差感応式のビスカス式は機械式に入れないことが多いようだが、ビスカス式も機械式と言えば言えると個人的には思っている。
ビスカス式というのは多数のインナープレート(入力側)とアウタープレート(出力側)を交互に入れたユニットの中にシリコンオイルを満たした形になっている。この機構だと左右の回転差がないときには差動制限をしない(実際には、若干の引きずりがあるので全くないというわけでもない)。
入力側、出力側のプレートのどちらかの回転が変わると、プレートによってシリコンオイルが攪拌されることによって膨張し、プレート同士を押し付ける。プレート同士が密着すると左右の回転差がなくなりLSDが効くという仕組みになっている。
イニシャルトルクがないと、片輪が空転したりリフトした場合に効果がない多板式LSDにくらべ、回転差によって効くという面では実用性としては好都合な面も多いが、プレッシャーリングでクラッチプレートを圧着させる多板式に比べると、シリコンオイルを使うということで、効きとしてはマイルドになる。やっぱりアクセルオンで前に出ていく方がモータースポーツでは好都合だろう。