自動車ライター飯嶋洋治のブログ

編集者、ライターです。

GTメモリーズ14「アルシオーネ/アルシオーネSVX」(モーターマガジン社)を発売しました。

モーターマガジン社から「アルシオーネ/アルシオーネSVX」を発売しました。

モーターマガジン社から、GTメモリーズシリーズの14弾「AX7/CXD アルシオーネ/アルシオーネSVX」を発売しました。私が編集長を努めています。

ご存知の方も多いと思いますが、飛行機メーカーを源流に持つスバルは、堅実なイメージで売ってきました。ただし、時代が進むにつれて地味なイメージだけではなかなか難しくなってきます。

アルシオーネVRターボ

 

そんな中で、198年に登場したアルシオーネは、それを払拭するようなインパクト。超未来的スタイリングとしながらも、その中に水平対向4気筒エンジンや信頼の4WDシステムを盛り込みました。

さらに87年には2.7L水平対向6気筒を搭載し、4WDも電子制御を加えることで進化したアルシオーネVXを発売、よりスペシャリティ感を際立たせました。

アルシオーネVX

さらさらに1991年に登場したアルシオーネSVXは、もう一段の先進性を打ち出し、3.3L水平対向6気筒DOHC24バルブエンジンを新開発。4WDは前後不当トルク配分の35:65とし、センターLSDでロック率を調整できるハイテクとしています。

スタイリングもラグジュアリークーペとして一目置かれる存在になりました。

アルシオーネSVXバージョンL

本書では、その3世代に渡る進化を詳細に解説しています。また、各モデルの発売当時のモーターマガジン、ホリデーオート両誌の記事を収録し熱気を再現。巻末には抜粋で各モデルの新車カタログを掲載することで、完全保存版にふさわしい内容としています。ご一読いただければ幸いです。

関連記事はWebモーターマガジンでも読めます。

web.motormagazine.co.jp

 

 

MTのチューニング・自動車のメンテナンスとチューニング(15)

MTのチューニングとして最初に上がるのがクロスレシオトランスミッションの 採用になります。 これは新車時にそのような仕様になったもの もありますが、実際にレースやラリーなどの競技で使用する場合には、さらにクロ スレシオ化が必要になる場合があります (下図)。

きちんと知りたい!自動車メンテとチューニングの実用知識(日刊工業新聞社

クロスレシオトランスミッションは、 専用品が市販されている場合もある

競技で活発に使用される車種の場合には、メーカー系のチューニングパーツディビジョン (オプション)やチューニングパーツメーカーで設定されることもあり、 そういうものに交換するというのが一般的な方法となります。 また、 同一形式のトランスミッションで違うギヤ比の設定がある場合には、それをもともとのギヤと交 換することでクロスレシオ化できる場合もあります。

競技専用となると、 ドッグクラッチを使用したトランスミッションが市販されていることがあるので、それを使用するという方法もあります。 これはクラッチということで、エンジンとトランスミッションを断続するクラッチと勘違いしやすいですが、そうではなくてトランスミッションの内部の構造です。

きちんと知りたい!自動車メンテとチューニングの実用知識(日刊工業新聞社

具体的にはトランスミッション内でギアを連結するハブスリーブ にシンクロメッシュがなく、 その代わりに丈夫なドッグ (dog) 歯を用いたものをいいます。 まさに犬の歯のようにがっちりと食いつくために、エンジン回転とトランスミッシ ョンの回転が合っているという前提条件はありますが、ダイレクトなシフトができ ます (上図)。

シンクロメッシュがないためにシンプルであり、 トランスミッション自体が軽量 となるというのもメリットです。

ドッグクラッチ式とシーケンシャルを組み合わせる方法もある

さらにドッグクラッチトランスミッションの場合には、シフトパターンをシー ケンシャル方式にするという手段もあります。 これはH型のシフトパターンを変更して押し たり引いたりというIパターンにすることで、シフトチェンジのミスを減らしたり、 シフトチェンジの時間を短縮する効果があります(下図)。シフトレバーはドラムを回す装置となり、そこに切られた溝に沿ってスリーブが動くことにより、シフトチェンジが可能となっています。基本的にはオートバイのトランスミッションと同じ仕組みです。

きちんと知りたい!自動車メンテとチューニングの実用知識(日刊工業新聞社

MTはトランスミッションオイルによってギヤやスリーブを保護しています。 通 常の使い方ではあまりオイルの交換は重要視されませんが、 競技で使用する場合に は、性能の良いオイルを定期的に交換する必要があります。

 

 

 

MTの構造と特徴・自動車のメンテナンスとチューニング(14)

出典:「きちんと知りたい!自動車メンテとチューニングの実用知識(日刊工業新聞社)」

MTはトランスミッション内のスリーブをシフトレバーで動かして変速する

MT は、 必要なときに素早く 、 自分がベストと思える ギヤにチェンジできるため、スポーツドライビングなどでは好まれます。

構造を簡単に説明すると、 前進6速ギヤなどの場合には、 トランスミッション内部で1速から6速までのギヤがすでに組み合わされた状態にされています。

つまり「ギヤチェンジする」 といっても、実際には組み合わされたギヤのどれか を選ぶという構造になっているということです。こうした構造を「常時噛み合い式」と呼びます。かつてはギヤ自体が動くものがあり「選択摺動式」と呼ばれましたが、 現在では見られません。

ではシフトレバーを動かすと何が動くのか?ということになりますが、これはスリーブ(ハブスリーブ) が動きます。自分が選択したいシフトポジションにシフトレバーを動かすと、スリーブがシャフトとあらかじめ組み合わされたギヤを固定することにより、エンジンからの入力がトランスミッションから出力されるという 形になります 。

シンクロメッシュによる回転の同期がスムーズなギヤチェンジに必要

出典:「きちんと知りたい!自動車メンテとチューニングの実用知識(日刊工業新聞社)」

ちなみにスポーツカーなどでは「クロスレシオ (close-ratio) トランスミッション」 が採用されていることもあります。

これは、各ギヤのギヤ比を近くしているものです。 ギヤ比が離れていると、シフ トアップしたときにエンジン回転が大きく落ち込みトルクバンド (もっとも効率良 くトルクを出せる回転域) から外れてしまうことがあります。 それを防ぐためにギ ヤ比を近づけ、回転の落ち込みを少なくするという意図があります。

ギヤチェンジの際にクラッチを切りますが、一旦エンジンからの動力を切り離し てやることによって、 トランスミッション内部のスリーブに余計な負担をかけるこ となくシフトチェンジできるようにするためです。

また、スリーブの回転を同期させる (タイミングを合わせる)ための装置として シンクロメッシュを用いることによって、よりスムーズなシフトチェンジが可能と なるような配慮もされています 。これは、いきなりスリーブを噛み合わせるのではなく、摩擦などで回転差を少なくしながら(同期)、噛み合わせるための装置です。

 

 

 

加速はトルク、最高速は出力? その理解、合ってますか? ――体感と物理のすきまの話

スパナでボルトを締めたときに、力がかかっているけれど動いていない状態をトルクと考えると、それと回転数をかけたものが出力というイメージが湧きやすいかもしれない。

トルクと出力は、どちらもエンジン性能を表す

自動車のエンジン性能の表示には、トルク(Nm、kgm)と出力(kW、ps)があり、どちらもエンジンの性能を表しています。現在はSI単位系としてトルクはNm、出力がkWで統一されています。トルクと出力の違いをわかりやすく言えば、トルクはアクセルを踏んだときの(瞬間的な)加速感を表し、出力は継続的な加速力を表すというのが体感的にも物理的にも正確に近い表現になります。

今はSI単位系としてトルクをNm、出力をkWで表す方向(上)で統一している。ただ、実際にはkgmとpsの両方の指標が単位として使用されていて馴染もある。

トルクはエンジンでいえば燃焼圧力でピストンを押してクランクシャフトを回転させようとする力で、イメージとしてはボルトにレンチで力をかけても、まだ動いていない状態を想像するといいでしょう。これが動くと『仕事(kgf・m)』が発生し、それを時間で割ったものが出力(kgf・m/s → kW、ps)になります。

kgf・mとkgmは似ているが、仕事が発生している(左)がkgf・mで、エンジンのトルクを示すkgmは力がかかっているけれど動いていない状態(右)になる。

ちなみにこのkgf・mは、トルクの単位であるkgmと混同されることがあるのですが、似てはいるものの、違うものになります。エンジンの場合、トルクは実際には移動して(回転して)いますが、トルクそのものは便宜的に「回転させようとする力」として存在していると考えます。

最大トルクとその回転数の意味

エンジンには最大トルクという指標があります。これを表すときに最大トルク発生時の回転数(rpm)も合わせて表示されます。このときの回転数は何を指すかというと、最大トルクを発生することができる条件を意味しています。

シャシーダイナモが教えてくれること

具体的には、エンジンのパワーチェックをするときのシャシーダイナモで、エンジンをある回転数に保ち、シャシーダイナモでだんだん負荷をかけていて、拮抗している(そのエンジン回転を保てるぎりぎり)の状態が最大トルクです。

 

このとき、エンジンは回転していてシャシーダイナモに力を伝えているので、広い意味では仕事をしていることになりますが、クルマ自身は進んでいるわけではないという意味で、イメージとしてはボルトにレンチで力かけながら耐えている状態と考えていいでしょう。

 

出力とは「時間あたりの仕事量」

もう一つエンジン性能の表示には出力(kW、ps)があると冒頭に書きました。これは正確には仕事率、すなわち単位時間に行う仕事の量です。1psは75kgfの力で1m動かす=75kgf・mの「仕事」を1秒で行う出力、つまり「75kgf・m/s」と同じです。この辺はざっくりとした理解でとりあえずいいです。

動いて初めて仕事が生まれる

いずれにしてもトルクは動かなくてもいい「回そうとする」力なのに対して、出力は動いている=仕事が発生し、その効率を表したものといえます。この値が大きいということは、イメージ的にはアクセル全開で加速して、最高出力発生回転数まで加速し、最高速に達して速度を維持する力になります(エンジンの物理的限界を超えたりボディの空気抵抗などに負けない限り)。

 

こう考えるとトルク自体はエンジンのパワーの源になる大事な部分ですが、エンジンが回転しなければ意味がないともいえます。トルクはエンジンを回転させ続けることで、実際に役に立つ出力となります。

 

実際に最高出力を表すには前記した、シャシーダイナモでの計測トルクにエンジン回転数と定数を掛けた計算値で表されます。単純に最大トルク✕回転数✕定数ではないのは、最大トルク発生回転数の先までエンジン回転は上がるからで、そのときのトルクの落ち方が、回転数の増え方を下回らないぎりぎりの時点が最高出力ということになります。

これはランサーエボリューションX(黒線)のトルク曲線と出力曲線。ここではランサーエボリューションIXとの比較も表示されている。これを見ると3000rpmあたりで400Nm程度のトルクが発生しているので、たとえば4速あたりでもアクセルをぐっと踏めば瞬間的に「トルクがあるな」という体感は得られるはず。最高出力は200kwオーバー(カタログスペックはは280ps)で最高速まで加速を続けようとするなら、トルクは落ちている6000pm程度まで各ギアで引っ張るというのが理にかなった方法だ。

トルクvs出力──どっちが大事というよりも「両輪」として考えるのが正解かも

よくエンジン性能を語る際にトルクが重要なのか、出力が重要なのかが話題になることがありますが、イメージとしては片方がなければ片方がないという補完的な存在であり、どちらも大事なものです。実用的には同じエンジンを2つの要素で表したもので、そのエンジンがどういう性格を持つのかを知る上での指標として活用する材料といえます。

 

 

タイヤのグリップを超えられる、なんて無意識に言ってませんか?

●「タイヤのグリップを“超える”? ちょっと待って」

抜けてますが縦グリップがy軸で横グリップがx軸。出典はwebモーターマガジンですが、作製は私なので著作権は大丈夫!

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摩擦円(フリクションサークル)って聞いたことあるはず?

モータースポーツをしている人なら、見たことはあるのはもちろん、いろいろ考えたことがあると思うのがタイヤの摩擦円(フリクションサークル)。私もこれについて普段(ぼーっと)思ったり考えたりしていることがあるので、ここで紹介してみたい。戯言程度に聞いてもらえればと思う。

あえて、1輪モデルで考えてみよう

基本的なところはこれがタイヤのグリップを表す図(概念)であり、x方向がタイヤの横のy方向がタイヤの縦のグリップ力を表すということだ。で、円の一番外の枠をタイヤのグリップ限界として、枠いっぱいを使い切るドライビングがタイヤのグリップ力をぎりぎりまで生かしていることになるので素晴らしい!という認識になる。ちなみに摩擦円は4輪ならこれが4つあるが、基本的な車両運動力学では1輪モデルで大丈夫。

筑波のS字や富士の300Rでグリップはどう使われているか

サーキットドライビングでも常にグリップ力ギリギリを使っているわけではなく、例えば200ps程度のクルマなら、ストレートで急加速しても、縦方向のグリップに余裕があるだろうし、コーナー進入でもコーナー形状によっては常にフルブレーキングではないから、グリップ力に余裕がある。ごくゆるいコーナー(例えば筑波サーキットのS字区間や、富士スピードウェイの300Rなど、スーパーフォーミュラやSGTは別ね)でも、摩擦円を使い切るような走り方ではなくグリップ力に余裕を残して走っているはずだ。

●「摩擦円をはみ出す」ってどういうこと?

実はグリップを“超えてる”んじゃなくて“無駄にしてる”だけ

この摩擦円を使った表現で前々からちょっと気になっていることがある。それはタイヤがスリップやスライドしたときに、「グリップ限界を超えた」とか、「摩擦円からはみ出る」というような表現をされること。細かいことをウダウダと思われるかもしれないが、タイヤのグリップ力が限界を超える(=グリップ力が増す)ということはなく、むしろそういう状態は「グリップ力を小さく使った」とか「グリップ力を無駄にした」みたいな言い回しになるのではと思う。

摩擦円の軌跡は外にはみ出さない

実際、そのときの摩擦円の状態をリアルタイムで見れば、軌跡が外側に向かうのではなく内側になるはず。摩擦円の軌跡はグリップは限界までは上がっていくが、その後、軌跡がはみ出ることはなく、収束するというような説明があると、より親切なのかなという気がしている。

●昔、摩擦円にこだわってけげんな顔をされた話

某誌でのこだわりと編集者の反応

そういえば以前(と言っても20年以上前だが…、具体的に言っちゃうと昔のレブスピード)で、摩擦円の解説をしたことがあって、私がこだわって「タイヤのグリップを超える」という表現を使わなかったら、当時の編集者からへんなことにこだわる人だなと思われた節もある。また、これもこのときだったと思うが、タイヤの摩擦円はベクトルで表されるということを解説したのも結構新鮮だったようで喜ばれた(んだと勝手に思っている)。

「縦8、横2」って言うけど、本当は?

ベクトルといえば、レーシングドライバードラテクスクールや解説を見ると「タイヤのグリップは縦横合わせて10で、ブレーキングで8使ってしまうと、横は2だから曲がらないですよ」みたいな文脈で使われることがある。そこで使われている摩擦円図をみたら縦に8、横に2で合力が10とかになっていることもある。

基本式はこんな感じですが、覚えなくてもいいです😅

縦に80%を代入するとこんな感じ。計算はchat gptです。

計算としては、100%の自乗-80%の自乗=√3600=60%と同じ!

 

となるから、縦に8使っても横に6使えることになる。つまりタイヤのグリップとしては結構残っていて、実感としては「意外とよく曲がる」に近いかもしれない。とはいえ、その時のタイヤの荷重の状態や、タイヤの性能、クルマの性能などによってもそれは影響されるので、厳密には言えないが、グリップ力だけで見るとそうなる。

●安全に、でも気持ちよく走るコツは“少しだけ余裕を持つ”

ほんの少しスピードを抑えるだけで見える世界が変わる

というところから考えると、割合からいえばクルマのスピードを少し落とせば、横方向のグリップはけっこう多くなるということだから、安全に、でも楽しくサーキットを楽しもうと思えば、少しだけ(抽象的だが)余裕をもった走りにすればいいということになる。まあ、安全運転につながることは間違いないだろう。

 

 

 

クラッチのチューニング・自動車のメンテナンスとチューニング(14)

クラッチのチューニング方法とその効果

クラッチディスクの摩擦係数を高める方法

強化クラッチモータースポーツで有効なパーツだが、一般走行ではデメリットもある。出典:きちんと知りたい!自動車メンテとチューニングの実用知識(日刊工業新聞社

クラッチのチューニング方法はクラッチディスクのフェーシングの摩擦係数を高め、同時にクラッチカバーの圧着力を強化することですが、実質的には強化クラッチへの交換となります。

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クラッチディスクのほうは摩擦係数を高めるだけでなく、クラッチプレートの下図を増やす場合があります。通常はシングルプレートのところをツインプレートやトリプルプレートにする方法もあります(上図)。材質も通常の非メタル(繊維を樹脂で固めたものなど)からメタル(銅等)製にする方法が取られることもあります。

クラッチ強化のメリットとデメリット

シンクロメッシュやトランスミッションへの負担

ただしクラッチを強化するといっても、プレートのを増やしたり金属製にすると今度は慣性マスが大きくなってしまい、クラッチ切れ不良を起こし、かえってシフトチェンジがスムーズにできなかったり、トランスミッションに負担を与えることがありますから、選定は慎重に行なう必要があります。

クラッチを切れば通常はトランスミッション側はエンジン回転から切り離されますが、クラッチディスク自体が重いと、メインシャフトの回転が落ちにくく、シンクロメッシュに負担を与えるという面もあります。

駆動方式によるクラッチ強化の重要性

4WDにおけるクラッチ強化の必要性

強化クラッチはとくにエンジンチューニングをしたクルマに有効だが、エンジンノーマルでもハイパワー4WD車に有効な場合もある。

2WDの場合、いくらクラッチを強化しても、路面とタイヤがスリップしてしまえば駆動力(トラクション)が逃げてしまうのでクラッチ強化重要度が下がります。逆に言えばクラッチの負担が減るとも言い換えられます。

GRヤリスやランサーエボリューションなどのハイパワー4WDの場合は、路面とタイヤがスリップしづらいので、トラクションの逃げ場がなくクラッチの負担が大きくなります。この場合はクラッチ強化が重要になります。エンジンノーマルでも装着される場合が多いです。このようなクルマでモータースポーツのような激しい走行をすると、クラッチトラブルに繋がりかねません。

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競技用クラッチの特性と日常使用への影響

 メタルクラッチの扱いにくさと寿命

競技用の強化クラッチは、クラッチの寿命を長くする意図から製作されているわけではないこともポイントです。競技ベースで考えた場合、極端にいえば1レースだけ十分なクラッチの圧着力が得られればいいわけで、寿命に重きは置かれていません。さらに日常でメタルクラッチを使用すると材質によっては半クラッチが難しく、扱いにくくなる場合もあります。

👇️この記事の元ネタの本(自著)です。一度手にとっていただけると嬉しいですm(_ _)m

クラッチマスターシリンダー、レリーズシリンダーのチェック・自動車のメンテナンスとチューニング(13)

前回から続きます。

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「油圧式クラッチの仕組み」

クラッチが滑る場合には、走行距離などの目安があるものの、ある程度不可抗力の面がありますが、クラッチマスターシリンダーやレリーズシリンダーの不具合については注意していれば事前に気づけることもあります。

クラッチフルードが漏れるとクラッチが切れなくなる

油圧式クラッチクラッチペダルが機械的クラッチを操作するのではなく、ブレーキフルードを介して操作している。出典:きちんと知りたい!自動車メンテとチューニングの実用知識(日刊工業新聞社

現在、マニュアルトランスミッションの作動系統は油圧(正確には液圧)によるものが多くなっています。クラッチを踏み込むとマスターシリンダーによってクラッチフルードがパイピング内を移動し、レリーズシリンダーがレリーズベアリングを動かし、クラッチカバーのダイヤフラムスプリングによって、クラッチディスクがフライホイールより切り離されるという方式です(上図参照)。

ワイヤー式の場合は、クラッチディスクが減ってくるとワイヤー調整が必要になりましたが、油圧式となったおかげでそれが不要になり、クラッチの踏力も軽くなりましたから、メリットです。

ただしクラッチフルードという液体を媒介とするために、今度は漏れというトラブルが起きる場合があります。クラッチペダルとつながるマスターシリンダーのシーリング部分やマスターシリンダーによって動かされ、レリーズベアリングを動かすレリーズシリンダーが漏れの発生する部分となります(下図参照)。

ボンネットを開けたときにクラッチフルードのリザーブタンクをチェック

油圧式クラッチで重要パーツなのがマスターシリンダーとレリーズシリンダー。ここからの液漏れがトラブルの中では多い。出典:きちんと知りたい!自動車メンテとチューニングの実用知識(日刊工業新聞社

クラッチフルード漏れのサイン」

それで最終的にはクラッチが切れなくなったり、クラッチに近いマスターシリンダーからの漏れの場合には、クルマの底面や車内の足元がクラッチフルードで湿って気がつくことになります。こうしたトラブルはボンネットを開けたときに、クラッチフルードが入っているリザーブタンク内の液量をチェックしておけば早期に発見できる場合もあります。

これはブレーキフルードリザーブタンクに似たもので、ブレーキの場合はパッドの減りとともに液面が下がりますが、クラッチの場合はフェーシングが減っても液面は下がりません。つまり漏れの可能性が高いということです。

「フルード交換のタイミング」

また、クラッチフルードもブレーキフルードほどではないにしろ水分を吸って劣化します。その場合には、フルード交換(エア抜き)が必要になります。

この記事の元になっている本(自著)です。ご愛顧をm(_ _)m

 

 

 

クラッチのメンテナンス・自動車のメンテナンスとチューニング(12)

 

駆動伝達のカナメとなる「クラッチ

クラッチの構造」

MT(マニュアルトランスミッション)装着車に使用されるクラッチは、クラッチディスクがフライホイールに圧着されることで駆動力を伝えるパーツです(下図)。クラッチディスクは摩耗するものですから、ある程度の距離を走ったら交換が必要になります。その断続を行なうスプリングが装着されたクラッチカバーも交換が必要なパーツです。

クラッチクラッチディスク、クラッチカバーレリーズベアリング、レリーズフォークなどが主要部品になる。◎出典:きちんと知りたい!自動車メンテとチューニングの実用知識(日刊工業新聞社

交換はいつか必要になるが、ドライバーと使用条件に左右される

クラッチの摩耗とメンテナンス」

 

交換の目安のひとつには走行距離がありますが、これはドライバーの操作や使用状況によって大きく異なります。ドライバーのクラッチワークが上手な場合には、10万km走ってもまだまだ使えるという感じですし、逆に必要以上にエンジン回転を上げて、半クラッチを長く使ってしまうと、1万km程度でも交換が必要になる場合があります。

クラッチの劣化にはカバーの劣化も含まれる

市街地走行でゴーストップを繰り返す場合には、摩耗が多くなる傾向ですし、クラッチカバーのダイヤフラムスプリング(皿バネ)も劣化しますが、高速道路などを中心に使用する場合で、走り出したらほとんどギヤチェンジしない場合には、クラッチの消耗は必然的に少なくなります。

現在は油圧式(厳密には液圧式)のクラッチになった

クラッチペダルからクラッチマスターシリンダーまでが直接的にワイヤーで動かされていた場合はワイヤーの調整の必要がありました。現在は油圧式となり調整も不要です(下図参照)。油圧式の場合、滑りが発生していなくても、クラッチのミートポイント(つながり始める場所)が上がってきたら交換時期が近いというひとつの目安になります。

フェーシングが摩耗してしまうと、いくらクラッチカバーがフライホイールに押し付けても駆動力がタイヤに伝わらなくなる。◎出典:きちんと知りたい!自動車メンテとチューニングの実用知識(日刊工業新聞社
滑りとはクラッチディスクの圧着不良によるもの

クラッチディスクが摩耗すると、最終的にクラッチ滑りが発生します。これはクラッチカバーによってクラッチディスクがフライホイールに押し付けられていても、滑り止めのフェーシング(摩擦板)が摩耗しているために、回転が伝わらなくなりエンジン回転が上がってもクルマが前に進まないという状態です。

「使用環境による影響」


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最悪の場合はクルマは立ち往生してしまいますから、すべりに気がついたときにはすぐに修理が必要になります。交換作業はトランスミッションをエンジンから切り離し、クラッチディスクとカバーを取り外すし、新しいものに付け替える必要があります。DIYでするにはちょっと重作業になります。

左がクラッチディスクで中心にダイヤフラムスプリングが見える。右がクラッチディスク、外周がクラッチフェーシングだ。

より詳しくはこちらの本(自著)にも掲載しています。いちど手にとっていただけると嬉しいです☺️

 

 

ターボ車のチューニング・自動車のメンテナンスとチューニング(11)

ターボは吸気時に過給するわけですが、ある程度の過給圧になったらアクチュエーターを作動して制限しないと、エンジン本体のほうがノッキング(異常燃焼)などを起こし、最悪の場合は壊れてしまいます。逆に考えればノッキングが起こらない程度に過給を上げる(ブーストアップする)のなら限度はあるにせよパワーを上げるのは比較的簡単ともいえます。

 

VVCやEVCを装着すればブーストアップはできるが注意が必要

きちんと知りたい!自動車メンテとチューニングの実用知識(日刊工業新聞社

過給圧アップの方法としては、アクチュエーターを強化型にするのが手軽です。また、VVC(機械式過給圧コントローラー)やEVC(電気式過給圧コントローラー)などのブーストコントローラーを装着する方法もあります。さらにパワーアップを望むならば大径タービンに交換する方法もあります。

 

⏬️元ネタはこちらにあります。クルマの正しい?メンテやチューニング情報が詰まっています。

 

ブーストアップをした場合にはECU(エレクトロニック・コントロール・ユニット)の見直しも必要になる場合があります。ブーストが異常に上がっていると判断したECUが、燃料カットしてしまうためです。そうなるとブーストアップをした意味がなくなるばかりか、エンジンにもよくありません。EVCを導入した場合には、燃料カットの制御にもできる場合があります。

燃料カットしてしまう場合にはECU側の対策も必要になる

きちんと知りたい!自動車メンテとチューニングの実用知識(日刊工業新聞社


それ以外の対策としてはECUロムの交換や、サブコンピューターと呼ばれる純正コンピューターを外部から電気的にコントロールできるデバイスを使う方法などがあります。本格的なチューニングとなると、純正コンピューターからフルコンと呼ばれる競技用コンピューターに交換することになります。こうした作業はDIYでは難しいのでショップに頼むことになるでしょう。

こうなるとエンジンオイル管理もノーマルとは違った気の使い方をする必要が出てきます。オイルの定期的な交換(たとえばレースごとの交換)が必要になり、ナンバー付きのクルマであればサーキット以外ではタービン保護のためになるべくブーストをかけないなどの気遣いも必要になるでしょう。

yoiijima.hatenablog.com

 

ブーストアップによるチューニングは、たしかにエンジン本体をチューニングするよりも手軽という面はありますが、安直にやると後悔することにもなりかねません。信頼できるショップなどとよく話し合って行なうことが重要です。

 

ターボ車のアフターアイドルの意味・自動車のメンテナンスとチューニング(10)

今回はターボ車のオイル管理、メンテナンスなどについて解説します。ターボのタービンは、軸部分はオイルの中に浸されるなどもともと冷却には気を使われていますが、フルブースト(最大過給圧)がかかったときの排気側タービンの温度は900℃という厳しい状況にさらされます。

それでも走行中ならば、オイルはオイルクーラーで温度を制御されていますし、冷却水もタービン周辺を回っていますから、自動車メーカーが設計したターボエンジン(ノーマル)の場合、通常の使用でタービンが焼き付くというのは特殊なトラブルだと言えます。

過酷な走行からいきなりエンジンを切った時に起こり得るタービントラブル
   

きちんと知りたい!自動車メンテとチューニングの実用知識(日刊工業新聞社

問題になるのは高負荷からエンジンを切ったときです。もし、タービンが著しく過熱した状態でエンジン切ると、ウォーターポンプやオイルポンプが止まってしまうため、タービンの冷却が不十分になり軸部のオイルが炭化したり、タービンハウジングにクラックが入るなどのトラブルが生じる可能性があります。

⏬️このブログの元ネタがこちらです。エンジンを長持ちさせるためのノウハウやチューニングの話なども書いています。もっと詳しく知りたい方はこちらをクリック!

 

そのため高速(高負荷)走行をした後には数分アイドリングをした後にエンジンを切るというアフターアイドルが必要になる場合があります。過熱したタービンを冷やすのがアフターアイドルの意味です。

一般的な走行ではアフターアイドルに神経質にならなくていい

きちんと知りたい!自動車メンテとチューニングの実用知識(日刊工業新聞社

ただしそれはサーキットなどで走行後にいきなりエンジンを切るような特殊な状態で、一般走行をしている限りは想定しなくていいでしょう。アフターアイドルはタービンの保護に繋がりますが、反面として燃費を低下させるのはもちろん、排ガスの問題もあるので積極的にはおすすめできません。

 

 

強いて言うならばターボ車で過激な?走行をする場合は、エンジンオイル選びや交換タイミングにこだわったほうがいいでしょう。安価なオイルを使用するのではなく、信頼のおけるブランドのもので、粘度はウインターグレード(●W-●●のW側)で10W程度までがおすすめです。それ以上低粘度になるとタービンを保護するための油膜を作れない可能性があるので避けたほうが無難です。

一般走行では、他のクルマの流れの影響や信号でのゴーストップもあり、アフターアイドルが必要なほどタービンが過熱するというのは、ちょっと考えられません。かりにノーマル車でエンジンを切ってタービンが焼き付いたとすれば、それはドライビング側に問題がある可能性が高いです。

ターボ車の構造とメンテナンスの考え方・自動車のメンテナンスとチューニング(9)

ターボエンジンとは、エンジンの排気エネルギーを利用してタービンを回し、タービンと同軸にあるコンプレッサーにより強制的に吸気(過給)をさせる装置です。吸気効率が高くなるので、同排気量のNA(自然吸気)エンジンよりも排気量アップしたような効果があり、パワーが向上します。

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ただし、パワーが出るといっても過給を高めていくとノッキング=異常燃焼などの問題もあり、その場合エンジン本体の圧縮比を下げるなどの対処も必要になります。昔のターボエンジンがその傾向でしたが、圧縮比を下げると過給のかからない低中回転域でパワーの小さい、扱いづらい特性になってしまう傾向でした。

現在は素のエンジンの性能を生かし、ターボで補助するという傾向に

 

きちんと知りたい!自動車メンテとチューニングの実用知識(日刊工業新聞社

CO2削減の声が強まり、燃費の低い大パワーのターボエンジンは姿を消したかのように見えましたが、現在はダウンサイジングターボという形で復活しています。これは比較的小排気量のエンジンに小さめのターボが装着されているものです。

エンジンが小さくなるとエンジン単体での燃費は向上しますし、それぞれのパーツも小さくなりますから、エンジン内部のフリクションの低減など良い面があります。反面、小排気量にしたことでのパワーの低下は避けられません。

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そこでターボによる過給を行います。かつてのように高回転にならないと過給を行なわないようなセッティングではなく、低中回転域から十分に過給が行なわれる工夫がされ、エンジン本体の圧縮比も比較的高めにしてエンジンそのものの性能を活かすことで、低中速走行での扱いやすさと燃費の低減を考えています。

メンテンナンスのポイントは定期的なオイル交換

きちんと知りたい!自動車メンテとチューニングの実用知識(日刊工業新聞社

昔のターボエンジンは、とくに高回転を多く使う場合、オイル管理にかなり気を使いました。現在はそれほど神経質になる必要はありませんが、それでもメンテナンスのポイントはエンジンオイルになります。

最低限やっておきたいのは、メーカーが推奨するサイクル以内でのエンジンオイル交換を行なうことです。もちろん、それよりこまめに交換してエンジンに悪いことはありませんし、高回転域を多く使う場合には5000kmなどで定期的な交換がエンジンには望ましいと思います。

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現在、メーカー指定のオイル交換のサイクルは長距離になっている傾向ですが、これはエンジンの信頼性が高まったことも考えられますが、自動車メーカーの「多すぎるオイル交換は環境破壊」という考え方も根底にあると言われます。

ラジエター、ラジエターキャップ、ホースのチェック・自動車のメンテナンスとチューニング(8)

冷却系でチェックしておきたい重点ポイントがいくつかあります。まず、ラジエター本体からの冷却水漏れです。もし、駐停車中、ラジエターの下を見て水が溜まっていれば、ラジエターからの水漏れを疑ってみる必要があります。私も自分のクルマから冷却水漏れか?と焦ったことがあります。そのときはウインドウォッシャーのリザーバータンクからでした。そんなこともありますから、見極めが必要です。

ラジエターキャップは劣化が避けられないパーツ

きちんと知りたい!自動車メンテとチューニングの実用知識(日刊工業新聞社

冷却水の場合、水が蒸発した後でもLLC自体の成分が粉状になって残るため、それで判断することもできます。

冷却水の漏れは、徐々に漏れる程度ならば水漏れ防止剤などで改善する場合もありますが、根本的な解決にはなりません。長く乗るつもりであれば、ラジエターの修理とか交換が必要になります。

 

 

ラジエター本体以外ではラジエターキャップの劣化があげられます。これは消耗品です。ラジエターキャップは加圧することで、ラジエターコア内の冷却水の沸点を上げるという重要な役割を担っています。加圧のためにゴムのパッキンやスプリングを使っているために経年劣化は避けられません。

その場合の具体的な症状としては、以前より水温が上がり気味だとか、とくに漏れている部分が見当たらないのに冷却水が減っていくというような現象が挙げられます。このような場合は、ラジエターキャップを交換したら収まる場合があります。

ラジエターホースは熱によって柔らかくなったら要交換

きちんと知りたい!自動車メンテとチューニングの実用知識(日刊工業新聞社

ラジエターホースも経年劣化するパーツです。とくに高温の冷却水が戻ってきてラジエターへつながるアッパーホースは、膨らんだり、傷などから水が漏れるという症状がでやすいです。

 

 

新品と比較してみないとわかりにくい部分ですが、ラジエターホースを掴んでみて、グニャグニャしているとか変形しているようなら劣化が疑われます。またホースバンドの緩みにも注意が必要です。

冷却水の役割とチェックポイント・自動車のメンテナンスとチューニング(7)

多くの国産車のエンジンルームには、ラジエターとそれとホースにつながったリザーブタンクがあります。冷却水については、基本的にここをチェックすればOKということになります。リザーブタンクにはF(フル)とL(ロー)のレベル表示がありますから、冷却水がその間にあることを確認して、Lを下回っているようだったら冷却水(水+LLC)を継ぎ足すようにします。

LLCを用いることで凍結や冷却系のサビが防げる

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冷却するだけならただの水でもいいのですが、水だけの場合はラジエター内やウオーターギャラリーなど冷却系にサビが発生する可能性や、氷点下になると凍ってしまうことがあります。凍ると水の体積が膨張しますから、冷却系を破損してしまう恐れもあります。

 

 

そのためにはLLC(ロングライフクーラント)を混ぜます。LLCには水の氷点を下げる、サビを防ぐなどの効果がありますが、主成分はエチレングリコールです。量販店では、自分で薄めて使う原液と、そのままリザーブタンクに充填できる製品があるので、使用する場合には要チェックです。ちねみにLLCは着色されていますが、これはメーカーによる目印のようなもので内容物は同じです。

冷却水が規定量入っているのなら神経質になる必要はありませんが、できれば1~2年に1度くらい交換するといいでしょう。自分でやる場合は、エンジンが冷えている状態でラジエター下にあるドレーンプラグを外し、冷却水を抜きます。このときに抜いた冷却水は毒性があるので、ガソリンスタンドなどで処理してもらう必要があります。そういう意味ではプロに任せた方がいいかもしれません。

冷却水交換時にはエア抜きが必要

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ドレーンプラグを締めたらラジエターキャップを外してLLC(+水)を入れ、さらにリザーブタンクにも適量のLLC(+水)を入れます。

この後、エア抜きが必要になります。これはラジエターのキャップを開いたままで、ヒーターをHOTにしてエンジンを始動し、ラジエターや配管内のエアを抜く作業です。

 

 

冷却水が温まってくるとラジエターのフィラーから気泡が発生して水面が下がります。その都度冷却水を足します。気泡の発生が終わり水面が下がらなくなったらラジエターキャップを締め、リザーバータンクの冷却水を適量にして終了です。

その後、走行後にリザーバータンクの冷却水が減っているようならば、また足しておきましょう。

 

エンジンを守る冷却装置の働き・自動車のメンテナンスとチューニング(6)

エンジンが発熱しているというのは、エネルギーが発生しているということですから、それ自体は必要です。ただし、エンジンは熱に対して限界がある金属を中心にできているため、耐熱温度を超えればシリンダーヘッドが歪むなど、エンジン自体が破損することがあります。また、エンジンオイルの粘性が低くなり、油膜切れを起こしやすくなります。

冷却性のシステムは、エンジンを保護するのに必要な温度を維持するためになくてはならない存在です。

エンジンは発熱しすぎても冷えすぎてもよくない

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エンジンはもともと発熱することを計算に入れて設計してあります。ピストンも熱で膨張してはじめてシリンダー径に合う円形になり、各部のクライアランスも適正になるなど、熱膨張を前提として設計されています。そういう面では、ある程度の温度になってはじめて本来の性能を発揮するといえます。

 

 

そのためサーモスタットを利用して温度を早く上げる工夫がされています。これはエンジンが温まるまではラジエターに冷却水を回さずにエンジン内部で循環させる装置です。適温になるとサーモスタットが開き冷却系に水が循環し水温をコントロールします。

冷却水が沸騰したら冷却効果が期待できない

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どちらかというとオーバーヒートのほうが問題視されますが、オーバークールという現象もあり、エンジンが冷えすぎても燃焼が安定せずにエンジン性能が十分に発揮できません。

燃焼にはガソリンと空気の混合気が必要ですが、低温だと燃料の気化が難しく、ガソリンがそのままピストンリングを抜けてエンジンオイルと交じる可能性もあり、エンジンいはよくありません。

 

 

冷却水の温度は平常時で80℃前後ですが、これがおよそ110℃を超えるとオーバーヒートの兆候が現れて、シリンダーヘッドの歪みやヘッドガスケットの破損などの恐れがあります。冷却水が100℃でないのは、沸騰するまで安全のためにマージンを取っていると言えます。