自動車ライター飯嶋洋治のブログ

編集者、ライターです。「モータースポーツ入門」、「モータリゼーションと自動車雑誌の研究」(ともにグランプリ出版)、「スバル・サンバー 人々の生活を支え続ける軽自動車の半世紀」(三樹書房)、「きちんと知りたい!自動車エンジンの基礎知識」(日刊工業新聞社)など著書多数。たまにサーキットを走ります。

帰りの飛行機で考えたことなど

 21日(土)、22日(日)と福岡県の三井オートスポーツランドの全日本ダートトライアル第2戦の取材に行って来た。特に決勝日の日曜日は一日中雨。地元の選手でさえ、こんな雨の中でイベントをやったことはないというような状態だった。どののようなイベントだったかはプレイドライブ7月号を是非購読して読んでいただきたいと思う。

 当日目立ったのは、能登半島地震のための義援金集め。今回の地震は、皮肉なことに輪島市門前が一番被害が大きかったということで、門前モータースポーツ公園がある地域の復旧のための義援金集めが、ことの他熱心に行われていた。これは基本的にはいいことだと思う。

 ただ、ちょっと違和感があったのは、義援金を入れるための封筒が配られ、その封筒に、氏名、住所、金額を書いて提出するようになっていた部分。匿名でもいいのだろうが。実は、私はあるNPO法人に関わっているのだが、そこでも献金という形でお金を集めることがある。そこでは、トータルでいくら集まったのかと、それを何に使ったかは細かく報告するが、お金を集める段階では、誰がいくら出したのかは、全くわからない方式になっている。それは、簡単に言えば、より多くお金を出したものが大きな発言権を得ないようにするという機能を働かせるためだ。金を出したから威張るという図式を排除している。

 まあ、義援金の場合、いくら出したから偉い偉くないというものでもないし、ダートラ仲間内的な関係でもあるから、半強制的に「門前のためなんだからもっと出せ」的な論理も成り立つだろう。もちろん義援金の金額も多いに越したことはないが、私の中の常識にはちょっとそぐわなかった。

 そして、プレイドライブ休刊についてのことも、もちろん聞かれた。ただ思ったよりは少なくて済んだ。外部の人間である私に聞いても仕方がないという気持ちを持っていた人もいるだろうし、聞きたくてもあえて聞かなかった人もいるだろう。ただ、大ベテランのI選手は本当に悲しんでいたし、M選手などは、プレイドライブがなくなったら、ダートラをやめる! などと発言していた。

 中には、今までプレイドライブが何も言わなくてもイベント取材にきてくれたから、他の媒体に積極的に働きかけることをしなかった。(プレイドライブには非常に酷な言い方になるが)、これを前向きにとらえて、積極的に他の媒体に働きかけて、一般の人にもダートラを知ってもらうようにしなければ、という趣旨のことを言うドライバーもいた。これにも基本的には同意する部分が多いが、そのためには、ダートラが一般の人を引きつける魅力をどれだけ持っているか? ということから考え直さなければならないだろう。どうも、ダートラを知ってさえもらえれば、盛り上がると単純に考えているような風にもとれた。

 天気のことはしょうがないが、今回の雨の三井オートスポーツランドにモータースポーツを知らないような媒体の人間が取材に来たら、二度とダートラにはいくまいと思われても仕方がないと思う。

 晴れていたとしても、たとえば、常識的なカメラマンの立場になれば、1本目と2本目のインターバルは短すぎる。現在はデジカメだから、撮影したデータをパソコンに落としていれば昼食も落ち着いて食べる時間もない。また、少しでも良い写真を撮ろうというカメラマンなら、クラスごとに撮影ポイントを変えたいはずだ。各クラスの間に少しでもインターバルがあれば、カメラマンとしても、非常に仕事がやりやすくモチベーションも上がるだろう。これは、進行を早めたいという主催者の思惑とは全く反することはわかっている。しかし、一般誌に来てもらうというのはそういうことを考えなければならないということではないか? 
 
 ライターの立場から言えば、今回、各クラスの走行後、暫定結果のコピーが出されたが、それも選手用のものだから、プレスやサービスの方が持っていくのはご遠慮くださいとある。サーキットレースのプレスセンターでは、取材者にリザルトを逐次出すのは常識だ。まあ、私はリザルトを書き取ればいいが、他の媒体が取材に来たときにそれをどう思うか? 何のためのリザルトなのか、ちょっと考えさせられることになるだろう。

 また、イベントが終わって、選手からコメントを取りたくても、表彰式では選手は基本的にテントに隔離されてしまう。表彰式に出ないで帰ってしまう選手を出さないためにはいいのだろう。でもこれも本来はモラル問題なのだが。この隔離テントも、取材する立場からは困ることがある。最近は私もずうずうしくなって、テントの中で選手に話しを聞いてしまうことも多いし、それに快く応じてくれる選手も多い。だが、ある選手には、「表彰式中なのに取材するの?」とたしなめられたことある。「じゃあ、あなたのことは書かないからいいです」とは、雑誌に雇われている身としては言いづらい。それはどうでもいいことだが(笑)
 
 もちろん、好きで走っているだけだから、媒体に露出されなくても良いと思っている選手もいるのだろう。それはそれで自由だと私は思う。ただ、優勝争いに絡んで来るような選手が、こわもてな態度だと、一般誌の記者は引いてしまうに違いない。それはダートラ界にとって残念なことだ。

 と考えると、プレイドライブだから許していた(許されていたではない)ことが、他の雑誌が報道するとなると許されない(というか、一回は取材にきても、それ以上来てくれなくなる)ことも多いように思う。記事を作る際にも多いにとまどうことになるのではないだろうか? 第一、表彰式がドライバーのための表彰式になってしまっており、観客のための表彰式になっていないところが、現在のダートラ界を象徴しているようにも思う。

 個々のプレイドライブへの思いは別として、実利的にドライバーやチームにとって、プレイドライブがなくなることで一番困るのは露出する媒体がなくなることに集約されるだろう。プレイドライブがなくなったら、新たに雑誌ができるかもしれないというのは楽観的にすぎる。なぜなら、現在、自動車雑誌、特にモータースポーツの雑誌は売れないという大きな流れの中にあるからだ。では既存の他誌に来てもらおうと思ったとき、どう対処するのか? それは簡単なことではないように思う。

 というようなことを、帰りの飛行機の中で考えていて、羽田に着き、急いで帰らないと終電がなくなると思っていたところにプレイドライブのI編集長から電話。思わぬ仕事依頼に驚きながら山手線のホームでその対処をしているうちに終電がなくなってしまって、途中からタクシーで家についたのが午前2時前。

 今日は、なんとか『バイシクル21』の原稿を1本納めて、明日1本納められれば急ぎの原稿はなくなる。フリーライターっていうのは本当にフリーじゃない仕事だよ(泣)