自動車ライター飯嶋洋治のブログ

編集者、ライターです。「モータースポーツ入門」、「モータリゼーションと自動車雑誌の研究」(ともにグランプリ出版)、「スバル・サンバー 人々の生活を支え続ける軽自動車の半世紀」(三樹書房)、「きちんと知りたい!自動車エンジンの基礎知識」(日刊工業新聞社)など著書多数。たまにサーキットを走ります。

自動車雑誌、悪戦苦闘の100年史・モータースポーツ誌編(11・最終回)

11年ほど前にグランプリ出版から「モータリゼーション自動車雑誌の研究」というやけにカタいタイトルの本を出しました。中身は意外と?やわらかくて、歴代自動車雑誌紹介と、それらが発行された時代背景、風俗をからめ、できる範囲で関係者からのインタビューを掲載したという感じの内容です。絶版?になる前(※2024年3月5日現在在庫切れ?になっているようです)に、そこから抜粋したり、になって思うことを書いてみたいと思います。自動車雑誌編は24回で完結していますが、今回は同書の中で残っていたモータースポーツ誌編の第11回(最終回)となります。

2013年に発売した「モータリゼーション自動車雑誌の研究(グランプリ出版)」。この記事を書いているうちに在庫切れになったようです。ご購入いただいた方々ありがとうございました。もし欲しい方がいましたら、一度グランプリ出版にお問い合わせいただければ若干在庫がある可能性もあります。

モータースポーツは、日本のモータリゼーションの勃興期には、自動車メーカーにとって技術面、PR面を含めてなくてはならないものでした。1960年代に自動車メーカーがその威信を賭けて競争していた時代が、一番活発だったのも必然といえます。自動車雑誌に限らず一般マスコミ的にも、モータースポーツは若者層を中心に大きな興味の対象となり、若者文化の牽引役の一端を担いました。誰でもクルマを持てる時代ではなく、レーシングドライバーもある程度ノーブルな出自を持ち、ファンションリーダー的な面もありました。しかし、クルマの高性能が「速さ」に象徴される時代は長くは続かず、70年代に入ると大気汚染の問題から排ガス規制の時代へとつながっていきます。自動車メーカーも排ガス規制対策に追われるようになり、レースの表舞台から一端姿を消しました。ただ70年代に入ってもモータースポーツはパーソナルスポンサーを獲得したプライベートチームや、メーカー系のチームによる競い合いとなり、一定の盛り上がりを保っていました。

1980年代の後半からホンダのF1復帰や、日本経済の活性化の中で再び自動車メーカーがモータースポーツに力を入れるようになります。そこでメジャースポーツとして定着するかに見えましたが、1991年のバブル崩壊により再び沈静化。2000年代に入ってからもホンダ、トヨタのF1挑戦などがありましたが、それも(2013年当時から見ると)決して成功したとはいえないように見えます。

欧州を例に取れば、F1で活躍するチームは必ずしも自動車メーカーというわけではありません。純粋に英国車と呼べる自動車メーカーが無いイギリスであっても、マクラーレンやウイリアムズと言ったレーシングカーコンストラクターが存在しています。残念ながら日本ではそうしたコンストラクターがほとんど育ちませんでした。例えばトップカテゴリーであるスーパーフォーミュラでさえ、ドライバーの力量による勝負にする、あるいは経費高騰を抑えるという名目のもと、事実上外国製マシンのワンメイクになっていることからも見受けられます。そこに国内コンストラクターが参入できないというのは、国内モータースポーツ界を活性化するという面では疑問が残るところです。

優れたマシンを作り出すために、コンストラクターやその周辺のパーツメーカーが興隆してこそ、モータースポーツ業界全体が盛り上がるように思えます。自動車メーカーが参加することもありますが、本業はあくまでも市販車を作ることであり、経済環境が変われば撤退するということは、国内外のメーカーに関わらずあることで、そこに依存するのは危うい面があります。

モータースポーツ専門誌も、その興隆を見ていくと広告面などを中心に自動車メーカー依存体質になった面は否定できないでしょう。雑誌経営という観点から見ればメーカー、スポンサーに迎合的な記事となっていくのはある程度仕方がない面があったとしても、やはり報道機関としてのバランスが必要とされるところです。

趣味としてレースを含むモータースポーツに参加するという面から見ると、JAF管轄のイベントは高いと言わざるを得ません。それは参加者のレベルが高いというよりは、規則もその変遷も多いために窮屈で分かりづらいからという面のように見えます。その点、サーキット走行やJAF無公認レース(草レース)の方が相対的に盛んになっており、この流れは今後も止まらないでしょう。もちろん安全性の担保が大前提ではありますが、改造範囲は比較的ゆるく、楽しむということを主眼にイベントが行われており、趣味としてのモータースポーツのあるべき姿に近いように見えます。

レース以外のモータースポーツを見てみます。ラリーは80年代から90年代にはワークス、プライベーター問わず、積極的に世界を舞台に戦っていましたが、(2013年)現在は沈静化しています。かつてほど競技での成績が実車販売に結びつかなくなったことやコストの高騰、世界的な環境保護の潮流とも関係しているでしょう。これはジムカーナダートトライアルと言った競技も言えることです。

そういう状況の中でモータースポーツ専門誌も新しい切り口が求められているように見えます。競技としての真剣味やかっこよさ、趣味としての楽しさを伝えることは大前提となるでしょうが、排気音、タイヤスキール音対策などへの配慮の提案であったり、入門者にはわかりにくいという競技規則の解説を含め、専門誌としてもっと一般的に受け入れられるための提案などが含まれてくると思います。

モータースポーツ全般を見渡せば暗い話題ばかりでもありません。環境性能を追求しながら速さを両立するという新しい流れもあります。例えばルマン24レースにおけるアウディディーゼルハイブリッドエンジン搭載車や、トヨタのハイブリッドレーシングカーなどの活躍がその一端で、これらのマシンに対する興味は一般的にも高いように見えます。いずれにしても動力は内燃機関からモーター、化石燃料から電気という流れは続いていくでしょう。

反面、一時は見切りをつけられたと思われる内燃機関も見直されてきました。国内メーカーは一層の内燃機関の高効率化を達成しています。これは電気モーターとガソリンエンジンで主流争いをした自動車の勃興期にも似ており、先行きが注目されるところです。そして、どういう形にせよ時代に求められる形でのモータースポーツはこれからも続けられていき、それを報道するメディアも必要とされていくように思います。

 

というような感じで拙著「モータリゼーション自動車雑誌の研究」のモータースポーツ編ではまとめました。現在思うところは、モータースポーツというスピード感のある競争という点とそのリアルタイム性という面から見ると中心となるメディアはyoutubeに代表されるような動画配信が主流になるように思います。細かい解説は紙やwebが担当するような棲み分けでしょうか。ただ、それが今までのモータースポーツ専門誌のように商業的に採算ベースに乗るのかどうかという問題が残ります。

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