10年ほど前にグランプリ出版から「モータリゼーションと自動車雑誌の研究」というやけにカタいタイトルの本を出しました。中身はわりとやわらかくて、歴代自動車雑誌紹介と、それらが発行された時代背景、風俗をからめ、できる範囲で関係者からのインタビューを掲載したという感じの内容です。絶版?になる前に、そこから抜粋したり、今になって思うことを書いてみたいと思います。今回はその16回目です。
ネコ・パブリッシングから「ティーポ」が創刊されたのが1989年です。同社は「カーマガジン」を先行して発売していました。ただ、クオリティ誌のスタンスだった「カーマガジン」に対して、「ティーポ」は、より間口を広げた雑誌として期待されました。創刊当時の同誌を見てみると、バルブ後期ということもあり、仕方ないこととは言え“浮かれた時代”を反映している誌面に見えます。
創刊からしばらくは、自動車雑誌というよりはファンション誌的な表紙となっており、ページをめくるとスーツ姿の男性モデルが高級外国車の横でポーズを取っているというような、当時の世相を表しているような面もあります。
ただし、“その路線”ではあまり売れなかったという現実もあったようです。ブレイクするきっかけとなったのが創刊6号目の「気持ちよくクルマエンスーになる モノ知り100のQ&A」という特集企画からでした。これを機にもっと濃いクルマ路線にシフトしていくことになりました。
「ティーポ」から派生した雑誌もあります。同誌の日本車版として1992年に創刊された「J’sティーポ」がそれです。「ティーポ」自体、創刊当時から外国車に限らず国産車も取り扱っていましたが、国産車も根強いファンがいることから、特化して分離したものでした。隔月刊の時期を経て93年には月刊化します。
そこではAE86カローラ/スプリンター、マツダRX-7、ユーノス・ロードスター、シルビア、スカイライン、シビック、CR-X、インテグラなどスポーティな国産車を取り上げ、さらに国産旧車ファンも取り込んでいきます。
しかし、90年代に入りバブル崩壊が訪れると、こうしたスポーティな高性能車がどんどん市場投入されることはなくなります。日本の自動車生産のピークは1989年。この年に国内で生産されたのは1300万台を境に、以降はどのメーカーも減算を余儀なくされました。
一方で新機軸の自動車雑誌が現れるのもこの頃です。それまでは基本的に新車を中心にカバーする媒体だったのが、懐古趣味系とも言える自動車雑誌が生まれてきました。それは芸文社の「ノスタルジックヒーロー」です。当時の新車に失われてしまったクルマのもともとの素晴らしさ、楽しさを感じさせてくれるものとなっていました。
1986年から不定期で同傾向のスタイルで発行され、1988年より「ノスタルジックヒーロー」と名称が定まり発行されることになりました。主に1960年代から70年代のクルマを取り扱っていましたが、かつてそれらの車種を憧れと捉えていた層の需要に応えるものとなっていました。
さらには、当時を知らない若年層もファンとして取り込むことに成功し、隔月刊ながら定期刊行誌となります。
雑誌経営という面から考えると読者の購読はもちろん、広告も重要です。旧車を取り扱う雑誌の場合、自動車メーカーの広告を取ることは難しいですが、マニアックな旧車ショップも増えてきており、そうした需要を受け入れる下地ができていたというのも同誌が受け入れられた一因となりました。
新しいクルマに趣味性が薄れてきた分、個性的な旧車を好む層が生まれてきていたということでもあります。今までは、中古車として埋もれてしまっていたところを、すくい上げる専門誌が必要とされていたといえるでしょう。
また70年代の後半には現在のJCCA(日本クラシックカー協会)の前身のようなかたちでTOC(東京クラシックカーセンター)ができており、各地に旧車の愛好クラブができてミーティングなども開催され、盛り上がる機運も後押ししました。
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