自動車ライター飯嶋洋治のブログ

編集者、ライターです。「モータースポーツ入門」、「モータリゼーションと自動車雑誌の研究」(ともにグランプリ出版)、「スバル・サンバー 人々の生活を支え続ける軽自動車の半世紀」(三樹書房)、「きちんと知りたい!自動車エンジンの基礎知識」(日刊工業新聞社)など著書多数。たまにサーキットを走ります。

自動車雑誌、悪戦苦闘の100年史(15)

10年ほど前にグランプリ出版から「モータリゼーション自動車雑誌の研究」というやけにカタいタイトルの本を出しました。中身はわりとやわらかくて、歴代自動車雑誌紹介と、それらが発行された時代背景、風俗をからめ、できる範囲で関係者からのインタビューを掲載したという感じの内容です。絶版?になる前に、そこから抜粋したり、になって思うことを書いてみたいと思います。今回はその15回目です。

二玄社から1984ねに創刊された「NAVI」。ハードウェアとしての車というよりは、クルマの文化的側面に焦点をあわせてスタートした。

1980年代半ばに入ると円高が進み、輸出産業は苦戦する反面、今までは憧れでしかなかった外国車が比較的に手に入れやすくなります。いわゆるバブル経済に入ってきたのです。土地だけでなく高級車も投機の対象になり、自動車雑誌もまだ好調な時代が続いていました。

「カーグラフィック」の発行元である二玄社は、1984年に新しい形の自動車雑誌ともいえる「NAVI」を創刊しました。同誌は、自動車雑誌としてハードウェアとしてのクルマを取り上げつつも、創刊当初は社会派の色を鮮明に打ち出しています。

創刊号の目次を見てみると、巻頭特集が「ニューヨーク自動車生態系」。ここでは「交通戦争は終わりのない戦いだ」として、ニューヨーク市交通局長にインタビューをしたり、「自動車三昧なんて、なくていい」として、クルマ趣味に否定的な記事を乗せたりと、他の自動車雑誌とは違った視点からの切り口を見せています。

エンターテイメント系の記事としては、当時「金魂巻」のベストセラーで「◯金(まるきん)、◯ビ(まるび)」などの流行語を生み出した渡辺和博が「やっぱり自動車はオモシロイ」の連載を落ち、雑誌全体のバランスをとっていました。

いわゆるスノッブ層に支持されていると揶揄された面もありましたが、時代の流れに乗ったことや従来の自動車雑誌とは違うスタンスをとったことにより多くの読者を獲得していきます。

1985年に創刊の「ニューモデルマガジンX」。ジャーナリスティックな部分を含めて異色の自動車雑誌としての地位を築く。

1985年、これも異色の自動車雑誌として三栄書房から「ニューモデルマガジンX」が創刊されています。基本的には新車のスクープ誌ですが、注目されたのは歯に衣着せぬ記事が並んでいたことです。この時期、自動車メーカーも活況を呈しており、そこそこの部数が出ている雑誌であれば広告も潤沢に入っていました。

ただ、その分、スポンサーにおもねった記事が多いという読者の不満が当時からあったのは事実で、そこを汲み取った形といえるでしょう。

創刊号では、「特別企画ヤマハ・スポーツカー詳細トーク」や「これから登場するクルマ情報&スパイイラスト」を掲載。また、「モーター各誌市場レポート万華鏡 どれが本当なの」という自動車評論家を格付けするユニークな記事を掲載しています。

ちなみにこの記事の執筆者は荒木修三。肩書は試乗レポート評論家という人を食ったようなものですが、実は荒木は発行元である三栄書房の当時の社長、鈴木脩己のペンネームでした。

同誌はその後も、警察官僚の天下りの問題、行政の問題などを記事にするなど、新車スクープを柱としながらも、自動車雑誌と一般雑誌の中間のような立場で発行を続けていいきます。

1986年に創刊された「ゲンロク」。外国車、とくにスーパーカーを柱とした編集内容がウケた。

もう一誌、この時代を代表する雑誌を紹介しておきます。1986年、ゲンロク出版から「ゲンロク」が創刊されました。ゲンロク出版は三栄書房の別会社でした。想定読者は、現行自動車誌のどれをみても満足しない、かっこよさを求める若者全般であり、極端なマニアでもなく、ミーハーでもないマジョリティとしています。

同誌の柱は「スーパーカー」でした。80年代半ばのバブル景気の中、投機の対象となったスーパーカーは、読者の需要に応えるという判断もあったでしょう。創刊編集長は、三栄書房で「モーターファン」の編集長も務めた佐々木立郎ですが、事実上の編集長は福野礼。スーパーカーという分野での第一人者です。

創刊当初は、開園間もない東京ディスニーランドの特集やプロカメラマンによる車撮影術を紹介するなど、ちょっと迷いの見られる誌面づくりで、部数も伸び悩んだといいます。しかし、スーパーカー特集を組んだ1987年2月号は創刊以来の売れ行きを見せ、それ以降、スーパーカー路線を全面に押し出すようになります。

(参考文献・三栄書房60年の轍)

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