10年ほど前にグランプリ出版から「モータリゼーションと自動車雑誌の研究」というやけにカタいタイトルの本を出しました。中身はわりとやわらかくて、歴代自動車雑誌紹介と、それらが発行された時代背景、風俗をからめ、できる範囲で関係者からのインタビューを掲載したという感じの内容です。絶版?になる前に、そこから抜粋したり、今になって思うことを書いてみたいと思います。今回はその24回目でとりあえずの最終回となります。
前回の「ノスタルジックヒーロー」と同様、懐古系の自動車雑誌として「オールドタイマー」も読者の支持を集めていました。当時の編集長の甲賀精英樹編集長は、創刊以降の変化をこう語ってくれました。
「創刊のときから方向性はあまり変わっていないです。本誌ははじめに企画ありきではなく、ライターが編集部員のネタを吟味して作るような柔軟性を持たせてやってきたところがあります。もちろん、編集部主導で特集を組むことはありますが、どちらかというと、うちの雑誌では珍しいことかもしれません。どんなネタでも吟味して、使えるならば取材してみようという姿勢で来ましたし、これからもその路線でいくことになるでしょう」。
同誌で特徴的なのは、いわゆる人気車種と言われるハコスカやS30フェアレディZなどがメインで出てこないことです。甲賀編集長は「それは、むしろ読者からやらなくていいと言われるのです」と言います。それよりはレア車、商用車、あるいはユニークな人物のインタビューが好まれる傾向があるとも言います。同誌はオート三輪なども積極的に取り上げています。
「中心はこれからも60年代、70年代でこれは間違いないと思っています。さらに戦前のクルマについても深く掘り下げています。幅広く深く掘り下げるということは欠かせないと思っています。惰性に陥らないように気をつけていますが、読者の目は厳しいですからね」と甲賀編集長は言っていましたが、同誌の姿勢がよく現れており、その姿勢が読者からの信頼に繋がっているように思えました。
●オールドタイマー創刊時の話はこちら
2000年代に入ってから「XaCAR」も三栄書房から交通タイムズ社からの発売になるという体制の変化がありました。「モーターファン」や「オートスポーツ」を発行していた三栄書房が、「レーシングオン」や「レブスピード」を発行していたニューズ出版と合併するという自動車系出版業界の再編に伴うものでした。当時の編集長であった城市邦夫氏は「僕にも協力要請があったのですが断って、古巣の交通タイムズに話を持って言ってXaCARを発売することになりました」と言います。
自動車雑誌が難しい時代の中で、「XaCAR」はハイパフォーマンスカー路線をとっていました。そして基本的にはハイパフォーマンスが具現化できているは、スポーツカーだと考えているそうです。
「ただ、それだけではなくて、私は技術革新のあるクルマというのは大好きですから、それも取り上げたい。一方で、開発者などの人物に語らせようというのがあります。大きな特集をいつも組んでいるわけではないですけれども、ディープにやっている。その辺がウケているのかなと思います。ただ、もともと総合誌をやっていたので、あれもこれもやりたいとなりがちです。もう少し的を絞ったほうかいいのかもしれない」と城市編集長は語っていました。
このインタビューの後、同誌は2013年7月号をもって事実上の休刊となりました。以降は季刊としての発行となり、内容もトヨタ86、スバルBRZに絞った内容となると予告されていました。
●XaCAR創刊時の話はこちら
ここまで、2000年代に入ってからの代表的な数誌の現状を取り上げたにすぎませんが、全体的な傾向は各編集長の言葉にあらわれているように思います。とくに2008年の「リーマンショック」以降、不振が伝えられる自動車雑誌業界で、市場が縮小していることはフリーランスとして活動している私も肌で感じる所でした。
自動車雑誌を出せば売れる時代から、景気の後退により、とくに従来クルマを購入していた若年男性層の所得が減っていることや、自動車メーカーを取り巻く環境の変化から販売部数は現象していきました。メーカーがそれまでの自動車ファンをひきつけるような新型車を開発しなくなっていたこともあります。もちろんニーズの多様化に応えるのは当然とも言えるのでメーカーのみを責めることはできません。
一方で既存の読者は相対的に知識レベルが上がり、従来のままの雑誌では物足りなくなっている傾向もありました。インターネットを利用し、誰もが情報発進できるという状況の中、こうした読者が個人のホームページ、ブログなどを開設すると、限られたリソースの中で幅広い読者に対応しなければならない自動車雑誌のレベルをときに超えてしまい、さらに自動車雑誌離れが進むという循環も生まれたように思います。
自動車雑誌は、読者ではなく自動車メーカーなど広告主を向いた記事が多いという声も聞こえてきます。たしかにその傾向はないとは言えませんが、自動車メーカー自体が「自動車雑誌離れ」ともいえるスタンスを取っているという傾向もあります。それまでのともに業界を盛り上げていくという姿勢は過去のものとなり、言われるほど強固な関係はないのが現実でしょう。
いずれにしても自動車の興味の大きな部分はメカニズムや、それが生み出す走り、移動の自由であるはずです。さらに、それが趣味にまでなる数少ない工業製品であり、その魅力がどの部分なのかを考えれば、自ずと解は見えてくるはずであり、その部分を削ってしまえば当然ながら自動車の魅力は失われるでしょう。自動車の魅力は案外身近にあって、自動車雑誌による再発見をまっているのかもしれません。
※(追記)というような締めくくりを2013年の段階でしましたが、現実はそのような楽天的なものではなく、より厳しい状態が続いているように思います。(2023年7月20日記)
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