前編から続きます。
グランプリ出版から「長期で売れる本を」という提案をされたわけですが、そういう本を書くためには時間もお金もかかります。私も単行本を出せること自体がモチベーションになるほどすでにナイーブではありませんでした。「まあ、本を出してもそれほどいいことがあるわけでもなく、今回の話はパスしてもいいかな」とも思いました。
ただ、もともとの私の嗜好が民俗学というか歴史系ということもあったり、当時自動車産業が全体的には栄えている反面、縮小していく自動車雑誌業界を見つつ、「ここらへんで自動車雑誌の歴史を振り返ってみるのもありかな?」と思い、「それならば趣味嗜好にも合うので苦行になることもないだろう」という気持ちから出した企画が「モータリゼーションと自動車雑誌の研究(※タイトルはグランプリ出版の社長が後に考えたもの)」でした。
もちろん内輪ウケで終わる危険性は考えましたが、その時々の自動車社会の状況と自動車雑誌の変遷を二重写しにしてみたら面白いのではないかというのが基本にありました。
企画書をグランプリ出版に提出したところ、とりあえず「長く売れる」というポイントはクリアしたようで、執筆期間は1年という制約がありましたが、執筆を始めることになります。自動車雑誌自体は小学生くらいのときから父が買ってきたものなどを読んでいたので、大枠の流れは掴んでいましたが、さらに古いものもありますので国会図書館、トヨタ博物館、明治新聞雑誌文庫などに行って再調査しました。
その合間を縫って媒体関係者にアポを取ってインタビューを進めていくという作業になります。もちろんアルバイトなどをしながらの執筆でしたからハードなことには違いありません。梅雨入りから夏までのけっこう暑い時期に都内を歩き回って集中して取材をしました。
インタビューのデータを文字起こしして文章を整え、各誌の創刊時の話を順番にならべ、それに当時の自動車社会を重ね…みたいなことを続けて、いくどか根気が尽きそうになりながらも、なんとか書き上げたのが秋くらいです。
当初は2013年の10月発売くらいの予定でしたが、その年の12月に東京モーターショーがあったのが著者的にありがたいような迷惑なような感じ。グランプリ出版としてはモーターショーでブースを出すので、そこで(大げさですが)新刊デビューにしたいということで、発売が2ヶ月くらい先延ばしになります。まあ、仕方ないかなという反面、印税が入るのも先になってしまいました。ここは読者の方にはまったく関係ない部分ですが。
中身に関しては概ね好評で、東京モーターショー会場ではモータージャーナリストの川上完さんがすぐに見つけて購入していったとか、自動車歴史家?の林信次さんが後に「私が書きたかったなあ」と言ったとか言わなかったとかという話を聞きました。ベストカーの創刊をした正岡貞雄さんとも、この本を書いたことをきっかけに親交を持たせていただけました。
売れ行きの方は、「それほどいいことはなく…」という方面では当たってしまいましたが、書いておいて良かったなと思う一冊にはなったと思います。